遠回りして気づいた自分のこと
「安定した仕事に就きなさい」
「今は資格を取って置いたほうがいい」
高校生の私は親のその言葉を信じて今の作業療法士という仕事の門を叩いた。
元々はイラストレーターになりたかった。
小学生の頃から絵を描いていた。
絵を描くのは好きだったけど、しかし技術がついてこない。
現実を見たほうがいいのか、高校生ながらにそう感じた。
期待された自分になったほうが周囲の人も喜ぶんじゃないか?
期待に応えることが誠実だと思い自分を納得させた。
専門学校に入学すると勉強や実習を経て次第に作業療法士になろうという気持ちが芽生えていた。イラストは描いていたけどノートの落書き程度になっていた。
専門学校卒業の頃にはイラストのことなんてすっかり忘れていた。
初めての一人暮らしの憧れと就職するという未知の恐怖が心を支配していた。
一つ目の職場は病院には定番の体育会系の職場だった。
おとなしい私は周囲に押されながらも仕事を覚えていった。
患者さんからの「ありがとう」という言葉が心の支えとなり、仕事で辛い状況にあった時も踏みとどまることができていた。
残業も多く、休日も職場主催の勉強会の参加と運営の手伝いでプライベートの時間はほとんどなかった。仕事のことしか考えてなかった。
仕事のお相手は患者さんで、皆さん人生の大先輩。
色々な話を聞かせていただいた。初めて就職した職場を定年まで勤めた人、仕事を転々として苦労した人、色々な人がいた。
話を聞いていて思ったのは、やりたいことをやってきた人の顔が違って見えたことだった。自分に正直に生きてきた人の顔は違った。清々しかった。
私もそのような顔になれるのだろうか。今、そんな顔なのだろうか。
胸にモヤモヤしたものが湧き上がっていた。
しかし、まだ作業療法士として日が浅かったのもあり、「おいおいなれるだろう、この仕事で」としかその時は思わなかった。
さらなるキャリアアップを図るため5年勤めた職場を辞め、学生時代に実習が厳しいと聞いていた地元の病院に再就職をした。
再就職1年目はとても大変だったが、慣れると最初に勤めた職場より時間に余裕ができた。外の世界に触れる時間が増え、それに比例して色々な人の考え方や生き方に触れることも増えた。
隣の芝生は青い、ではないけれど単純にいいなと思った。
仕事はやりがいがないわけではなかった。
納得はしてたけど満足はしてなかった。胸のモヤモヤがまた増えた。
久しぶりにイラストを描いて見たけど相変わらず下手なまま。
「描いてないんだもん、そりゃそうだよ」と心の中でぼやいた。
高校生の時みたくイラストを描いてもワクワクしなかった。
モヤモヤしたままで、自分が何をしたいのかわからなくなった。
そんな中、後輩の1人からゲームの配信をしないかと誘われた。
単純に面白そうだからという軽い気持ちで参加をしてみた。
正直とても楽しかった。
ゲーム配信を通して自分の考えを表現することや共有することが新鮮だった。
その活動を通して自分の好きなことに気づいた。
自分の思いや考えを他者に発信・表現することが好きだったらしい。
イラストを描いていたのも絵を通して自分を知って欲しかったのだと思う。
その「好き」が本当なのか確かめたくてもう一つ発信源を増やした。
ブログを始めた。
ブログを通しての発信でも同じ感情が沸き起こってきた。
間違いない、これだと思った。
高校生の進路選択の時、周囲の人に誠実であれと思い安定の道を選んだ。
しかし、それは自分のことを知ろうと努力しなかった結果だった。
ましてやその責任を周囲の人に押し付けていたのだと思った。
自分の好きなことに気づいたのはちょうど30歳になった時だった。
あの時、周囲の人だけでなく自分に対しても誠実であったらと後悔した。
でも同時に「まだ30歳だ、遅くない、まだ間に合う」と思った。
これからの人生は自分に正直でいようと決めた。
仕事を辞めることも決め、辞表も書いた。
心のモヤモヤはだいぶ晴れていた。
今が一番楽しい。
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